JOURNAL
「トルコ旅行記」Vol.5
アヤ・ソフィアとブルーモスク
─ 装飾に込められた祈りのかたち─
トルコ・イスタンブールに立つ アヤ・ソフィア と ブルーモスク。
わずか数百メートルの距離に並ぶ二つの大建築は、それぞれ異なる宗教と文化を背負いながらも、装飾の美しさを通して、観光を超えて時代や文化を旅しているような気持ちになれます。
私の好きな模様について、自分なりに少し深堀りしてみました。
アヤ・ソフィアに残るビザンツ文様
アヤ・ソフィアは 537年、ビザンツ帝国のユスティニアヌス1世によって大聖堂として建てられました。
ギリシャ正教の総本山としての役割を果たし、オスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落後はモスク、1935年より博物館、そして現在は再びモスクとして使われています。

金文字で描かれた巨大な円形メダリオンは、オスマン時代に加えられた書道作品。
直径約7.5メートルもあり、世界最大のアラビア文字カリグラフィーとしても知られています。
内部には今もビザンツ時代のモザイク画が残っており、黄金色の光に包まれる空間は息をのむほど荘厳です。

こちらのアーチ部分に見られるのは、四角と円を交互に連続させた幾何学模様。
クロスインスクエア「四角=地」と、クロスメダリオン「円=天」 を組み合わせることで、天と地の調和を可視化したデザインといえます。
どちらにも十字が組み込まれて、ビザンツ美術らしい、神学的意味を込めた装飾です。
また、アカンサスの柱頭はギリシャ様式。
当然、創建当時はまだイスラミックな要素はありません。

1階の出口に当たる場所に、壁面のモザイク画とドーム天井いっぱいに広がる幾何学模様が目に入ります。長い年月のあいだに何度も修復されてきたそうですが、黄金色のモザイクは今も変わらず輝きを放っていました。
ビザンツのクロス模様や、ギリシャ・ローマに由来するアカンサスの渦巻きとエッグアンドダーツ、大理石を左右対称に貼ったブックマッチのパターンなど、いろいろなモチーフが共存していて、思わず見入ってしまいます。
やがてこの建物がギリシャ正教の聖堂からイスラム教のモスクへと変わったとき、偶像崇拝禁止の教義により人物像のモザイクは漆喰で覆われたり削られたりしました。でも、お祈りの時に目に入らない場所にあるものはそのまま残されたり、布で隠されたりしてきたそうです。
この出口のモザイク画も、振り返らなければ見えない位置にあるため、観光客はこうして外側から眺めることができます。ただ、時折ここから要人が出入りすることがあり、そのときにはモザイクを覆うスクリーンが下ろされるのだそう。
1500年にわたる修復と改修を重ねた時代の変遷を、模様とその意味からも感じることが出来ました。
ブルーモスクのイスラーム文様
一方、その向かい側に建つブルーモスクは 17世紀、オスマン帝国のアフメト1世によって建立されました。内部を覆う美しい青のイズニックタイルにちなんでブルーモスクと呼ばれています。
本当の名前は「スルタンアフメトジャーミー」(ジャーミー=モスク)


ここでは人物像や十字架は登場せず、代わりに
- アラベスク(蔓草文様)
- ギリフ幾何学文様
- アラビア書道(カリグラフィ)
といった抽象的な模様が広がります。
無限に連続するパターンは、神の永遠性を象徴し、装飾そのものが祈りの表現となっています。
まさにこれが私の旅の一番の目的でした。


ドーム天井の装飾はペイントで修復されて、美しいラインがハッキリと見えます。
幾何学的な星形構造に蔓草文様が折り重なり、ドーム中央の円形の装飾へと視線を導きます。
その円形の装飾は金文字のアラビア語カリグラフィーになっており、コーランの一説が書かれているそうです。

その他に気になった模様についてはキャプションで。



二つの祈りのかたち
アヤ・ソフィアとブルーモスク。
どちらも祈りの場でありながら、その背景はまったく異なり、影響する文化の違いが装飾の違いとして現れています。
イスタンブールが特別なのは、この二つの美意識が同じ街の中で出会い、共存していること。
装飾を通じて宗教や歴史の深さに触れる体験は、私にとって大きな刺激となりました。
模様、歴史、建物、信仰、私の心惹かれるものが繋がり、そして広がった旅となりました。
1週間のトルコ旅を、5回にわたって綴ってきました。
旅の記録を通して、そこで出会った風景や人、そしてインテリアや模様に込められた文化の深さを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
これからも、旅先で心惹かれたデザインや空間について、少しずつお伝えしていけたらと思います。
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